Jan 29, 2020

春にして君を離れ アガサ・クリスティbook review





春にして君を離れ / アガサ・クリスティ(メアリ・ウエストマコット)

星5つ★★★★★


非常に怖かった。殺人が起きないのに、殺人事件簿よりも何倍も恐ろしいサイコホラー小説です。


異国の地で一人で過ごす時間が出来てしまったジョーンが過去を振り返り、これまでの自分は何にも気づいてなかったのでは、いや実は気付いていたのに真実から目を背けてきたんではないかと自分を疑うお話。


「子どもたちから見ても、わたしはすぐれた主婦であり家庭のよき管理者なのだ。まったくの話、わたしはすこぶる巧みに、また有能に家事を取り仕切っている。…続く」


夫や子供たちから呆れられ嫌われているのに、自分本位の考え方でしか物事を見れず、その真実を知る事をやめてしまったジョーン。最後は知ることも出来たのだが、、クライマックスはほんとに怖かった。。というか哀しい、可哀相。確かに自分が信じていた事が真っ逆さまに覆されると想像したら恐ろしい。でもこの話、第三者からの裏切られたり壊されるものでもなく、自分自身が作り上げた完璧だと思っていた世界観の破壊なんです。(いや、ロドニーの裏切りにもなる?!)



「知りたくないーそれだわ。いっそ、その態度に徹することだ。便利な言葉だーわたしは知りたくない…」


考えることを途中でやめてしまうことはどんなに楽か。と思う。真実を知るのは怖い、と言う経験は生きていれば一度はあるでしょう。無視して蓋をしまう事も簡単です。けど蓋をしても隙間から漏れて結局は気づくものじゃないでしょうか。そして偽りで生きていくのか懺悔するのか。




'Poor little Jone'
ロドニーがジョーンに言った様に、本当にかわいそうな孤独な、幸せ者。それは本人が幸せと信じ込んでいるから。そして家族もみんな幸せだと。
疑いの心を持たずに幸せだと信じ込むってどうやったら起こるのだろうか。それまでの人生できっと優等生一筋であり失敗している自分を知らない、異論を持つ人の排除、凝り固まった思想。などでしょうか。


私はジョーンが可哀相な人間であると思う。そしてロドニーの諦めた人生や子供たちとの関係を考えるとはやっぱり彼は被害者であると思った。だけど最後のエピローグのロドニーからの視点では、彼自身もジョーンとの人生を今まで通り変えることなく「諦める」ことにしたのだ。
もう通う事のない夫婦の心。


疲れ切って小さくなったロドニーの背中。いつまでも明るく元気なジョーン。


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